「スカーミッシュ! ザ・スクランブルズ」デザイナーズノート

ONE DRAW bloghttp://iwasgame.sakura.ne.jp/archives/823『Tunnels&Tricks』のデザイナーズノート:さとーの部屋:So-netブログと、デザイナーズノートを作成することが流行っているようなので、いつか公開することもあるかもしれないと残していたスカーミッシュ! ザ・スクランブルズ(以下、スカーミッシュ!)のメモ書きを公開することにしました。時系列に沿って思い出すまま書いてるので長いです。

※太字の部分は、現在のスカーミッシュ!にまで引き継がれている要素です。

根本は昔から考えていたゲームの一つ

1から9までの数を1回ずつ使い、高いほうが勝者として1ポイント。9ラウンド行いポイントを競う、という単純なゲームを大昔(多分、小中学生の頃)に考えていました。しかし、あまり面白くならなかったのでこれは残念ながら記憶の片隅へと封印されることとなりました。

時代は進んで最近

アナログゲームをしばらくプレイし、ゲーム経験値も上がったころ。突然、大昔に考えていたゲームの事を思い出しました。例のゲームをトランプの「戦争」のようなカードゲームにすれば面白くなるのではないか、とそう考えたのです。
また、日頃から全カード配りきりのカードゲームは運の要素が大きすぎるような気がしていたので、お互いに同じ9枚の手札を最初からすべて持ち、同時に1枚ずつ出し合って値で勝負してポイントを競うという形式をまず考えました。しかし、このままでは選択肢が多すぎて取り掛かりがつかない上に、パターン化するのが早くなってしまうと考え、山札から手札を作るように変更しました。

強いカードが強い、弱いカードは?

しかし問題はありました。今のルールだと、強いカードで相手の強いカードに勝ち、弱いカードで相手の弱いカードに勝つのが最善です。強いカードで相手の弱いカードに勝ってしまったら、その分こちらの弱いカードが相手の強いカードに負けてしまいます。これでは爽快感がありません。
そのため、強さを平均化するために3枚のカードの合計値で競いあうようにしました。これにより、強いカードと弱いカードを組み合わせて使うことができるようになりました。
また、9枚のカードを3枚ずつ組み合わせると、たったの3ラウンドしかありません。そして3ラウンド目の手札はすでに残りが決定しているため、実質2ラウンドで勝負がついてしまいます。これでは短すぎます。最低でも5ラウンドは欲しと考え、カードを水増しするためにダミーカードを8枚入れることにしました。これは、最初は6枚でしたが、最終ラウンドの手札を固定しないために2枚追加しました。

ここでようやくテストプレイ

さて、ここまで決まったところでテストプレイをしてみようと考えました。最初に作ったのは、カードに数字を書いただけのもの。イラストも何もなく、シンプルなものでした。
そのためか相手のやる気も出なかったようで全く相手にしてもらえませんでした。仕方なく一人で動かしてみることにしました。
最初は非常に地味な作業だったのですが、回していくうちにだんだんと問題点が明確になっていきました。最初から3枚のカードを同時に出すのでは運の要素が大きすぎたのです。試行錯誤を繰り返し、最終的に1枚目を同時に出し、その後2枚を同時に出すという形式になりました。これにより相手の1枚目を見て手を予測することができるようになったのです。

テーマが決まる

このあたりで、モンスター同士の抗争というテーマを思いつきました。1から9までをモンスターにし、ダミーカードをハリボテにしたのです。
1から9までのモンスターを何にするかはかなり難航しました。詳しくは覚えていませんが、1は弱そうな動物、9はドラゴンにし、それ以外は人間タイプ(亜人種)のモンスターで統一にするというところはこの時に確定していたはずです。

特殊なカードを考えた

設定も決まり、ある程度のゲームができたので、ハリボテと入れ替える特殊なカードを用意することにしました。
これは、ハリボテと入れ替える形なのでだいたい0になるように。と最初は考えていたのですが、最終的にはモンスター1体の代わりに出すということで、だいたい平均して5になるようになりました。
この時点で考えた特殊カードは以下の5種類です。

  • 聖杯:使用したラウンドで勝利した場合、そのラウンドのポイントが+1
  • ウィッチ:相手の戦力÷2。自分の戦力-3。
  • スライム:相手の任意の一枚を除外。
  • マンドラゴラ:お互いの全てを除外。
  • 剣:自分の任意の一枚の戦力を×2。

ウィッチのみ、当初は強すぎかと思われたので-3パワーを付与していました。他のカードは、発動時に効果の対象を選択できる点が現在とは異なっています。

特殊なカードに対抗するカード

マンドラゴラを出したら必ず引き分けでは面白くないため、それを無効にするモンスターを用意しました。
強さの異なる2枚にした理由は、マンドラゴラと弱い無効モンスターを出しても、相手がたまたま強い無効モンスターを出していれば負けてしまうような緊張感を残したかったためです。
この時点で、マンドラゴラの効果が及ばないモンスター、つまり死なないモンスターということで、アンデッドや魔法生物にしようと思いました。その結果、2がスケルトンに、8がゴーレムになりました。

目標を整理した

今更ながら、このゲームが何を目指しているのかを改めて整理することにしました。

  • 相手の狙いを「推理」する楽しさ。
  • 残りの戦力を「計算」する楽しさ。
  • 「デッキ構築」する楽しさ。

相手の狙いを「推理」する楽しさ。

これは、1枚目に出したカードを見ることで、相手がそのラウンドを取りたいと思っているか、また現在の手札がどうなのか、という推理を行うという要素になりました。

残りの戦力を「計算」する楽しさ。

自分か記憶力がないため、カウンティングの有無で勝率が変わってしまうようなゲームは作りたくありませんでした。そのため、各ラウンドで使用したカードをそのまま場に置いておくようにし、いちいち記憶していなくても相手の未使用カードがわかるようにしたのです。
しかし、残りカードが確実にわかってしまうのもそれはそれで問題だと思い、特殊カードを秘密裏に選ぶような形を考えました。

「デッキ構築」する楽しさ。

このころから現在に到るまで「入門ゲーム」を作りたいという目標があります。スカーミッシュ!もその一つで、デッキ構築ゲームの入門になればいいなと考えていました。

  • 第一段階:特殊カードを使わず、カードゲームに慣れる。
  • 第二段階:両者が同じ特殊カードを使い、特殊効果に慣れる。
  • 第三段階:両者が秘密裏に特殊カードを選び、お互いのデッキを推測することに慣れる。

という三つの段階を踏んでカードゲーム自体に慣れてもらおうと考えていました。残念ながらこの段階分けはなくなってしまいましたが、辛うじて初心者用カードに面影を見ることができます。

ポイント制度の改善

このあたりで、バトルラインを意識するようになりました。お互いの間に置いた得点カードを取り合うような形はどうかと考えたのです。
得点カードにするのなら、それぞれを異なる点数にすればゲームに変化が出ると思いました。当初は1〜5点だったのですが、最終的には得点カードを1点〜7点の中からランダムに5枚を選ぶようにしました。得点カードがランダムに変更されても、両者の条件としては同じため問題ないためです。
また、聖杯カードは、効果が+1から×2に変更されたり色々あった末、廃案となりました。

ハリボテカードの再考

ハリボテカードが8枚もあるのはどう考えても多すぎます。これはそもそも枚数の調整のために入れたものですが、複数回使えれば問題ないのではないかと思いました。ここにはクーハンデルの影響があります。
ここでハリボテカードが2枚に決定しました。1枚目にはモンスターを必ず出すので、2〜3枚目に入れ替える枚数だけあればよいと考えたのです。
この変更で、ハリボテカードは必ず手札にあるようになりました。ただのハズレカードから、戦略的に使えるカードに生まれ変わったのです。

魔法カードの完成

特殊カードを魔法カードに変更し、モンスターと魔法という分かりやすい分類にしました。
スカーミッシュ!は同時オープンのゲームなので公開時に対象を指定するのでは不公平になりがちです。また、×2の効果は必ず自分の最強のカードに、破棄の効果は相手の最強のカードに、と効果から考えて対象が明白なものがあります。そのため、魔法カードの対象は効果で決まっていることにしました。
これにより「弱いカード」が対象の効果が作成できるようになりました。相手の一番弱いカードを自分のものにするチャームの登場です。
チャームの登場により、対象が一意に決まらない場合が出てきてしまいました。それを解消するため、1ラウンドに魔法は1枚しか置けないようにしました。
それでも、両者の魔法が同時に発動した場合は効果対象が複数になってしまうことがあります。それを解消するため、全ての魔法カードに発動順を設定しました。この順序に沿って解決すれば、必ず対象が一意に決まるようになったのです。
剣はこの時点で「対象を×2にする」効果から「対象の値をコピーする」効果になりました。これは発動順の関連もですが、掛け算を無くすことで対象年齢を下げることも考えてのことです。
これにより剣は対象をコピーするミラーとなりました。ウィッチは呪いを振り撒くカースに、スライムは対象年齢を考慮し相手を眠らせて無力化するスリープとなり、この時点で全ての魔法カードが出揃いました。
また、5枚の魔法カードを1枚しか使用できないようにすると、毎ラウンド使うことが前提になってしまいます。そのため、魔法カードは2枚しかデッキに入れられないようにしあmした。

熟成期間、と言えば聞こえは良いが

このあたりで数ヶ月ほど制作が停滞してしまいました。テストプレイに1度断られているので表に出しづらかったのです。
友人連中と泊まりのゲーム会を行い、寝る前の雑談で他の二人がゲーム制作について話をしていました。その時に「とにかく仮でも何でもいいからイラストを付けるとやる気出るよ」と言っていたことに影響され、スカーミッシュ!にも仮画像を付けてやろうと気合が入ったのです。

テストプレイ用仮カードの作成

仮画像を見つけるため、Google画像検索を利用して探し回りました。その結果、完成したのが以下のカードです。記憶が薄いのですが、どうやらこの時点で初心者用カードというカテゴリも用意していたようです。
この時点で、2のスケルトンが「即死効果のドクロマークと紛らわしい」という助言を受けてマミーになりました。
ハリボテのみ、現在と全く変わらない効果アイコンになっていまが、それ以外の魔法カードはほとんど総入れ替えとなりました。



















ようやく動いたテストプレイ

画像がついたことにより、ようやくテストプレイに付き合ってくれるようになった。やはり画像の効果は偉大だ。
3ラウンド勝利してもゲームに負けることがあったので、3ラウンド勝利した側には3ポイントのボーナスを与えるようにしてみた。
これで何度か動かしてみたが特別問題らしいものは見当たらなかった。

ボードゲーム仲間の助言

いつものゲーム会に持ち込んでテストプレイしてもらうことにした。ここで「低い点数に意味がない。ペアを作ってボーナスというのはどうか」との助言を貰う。
それを踏まえて考えながらゲームすること数時間。みんなが帰る頃になってようやく思いついたアイデアが、「1〜4点にマークをつけて、2枚取ったら側にボーナス7点。ただし2枚ずつになったらボーナスなし」というものだった。
ボーナスが7点なのは、「1点+2点+ボーナス7点=10点」対「6点+7点=13点」で、残りのカードが3〜5点のため、逆転可能な確率が2/3ある。半々ではないのはまあそれくらいのリスクは残しておいたほうが良いかと思ったため。また、最大の7点と同じ得点にしたほうがボーナスとしてわかりやすいかなと思ったためでもある。
これがなかなか好評で、「取り返されると旨みがない」との助言を受けて2枚先取確定にして得点関連は完成となった。
また、このアイデアを確定した後に思い出したのはタブラ・ラサの先取方式。流石クニツィア先生は先を行っていた。

魔法カードの再考

同時に、「得点は洗練してきたのに魔法カードがこなれてないよね」との意見も受ける。それを受けて数種類の魔法カードを作成してみたがどれも複雑で基本セットに収めるには向いていなかった。多少バランスは良くないかもしれないが、元の5種類の魔法カードで行くことにした。

  • ディスペル:相手の魔法カードを無効にする。これは拡張A「ゲイザー」として再利用。
  • ガーゴイル:相手が魔法カードを使っている場合、9になる。これは拡張A「ガーゴイル」としてそのまま収録。
  • リバース:このラウンドのパワーの強さが逆になる(合計が低いほど強い)。ただし3(コボルドは罠の扱いが得意なので)が出ていると発動しない。「ルール改変が5ラウンド中2ラウンドもあるのはどうか」との助言で廃案に。




イラストを頼んでみた

無茶を承知で友人に頼んでみたら何と快諾。「モンスターメーカーみたいなちょっとおまぬけな感じのモンスター」で、というざっくりしたリクエストに見事答えてくれた渡辺伊織くん、ありがとうございます。月刊まんがライフにて「ギンダラとキンメダイ」連載中ですのでよろしくお願いします(宣伝)。

萬印堂の試作品無料キャンペーン

イラストを頼みつつ、萬印堂さんがキャンペーンをやっていたので試作品を作ってもらうことにしました。
右側の逆さ数字が大きめになっているのは、相手側から見て判断しやすいように配慮したつもりでした。しかし、あまり使用しなかったため完成版では小さくなっています。
魔法カードの効果アイコンはほぼ完成版と同様です。ただし、「最強のモンスター」「最弱のモンスター」の表記は最初期とも現在とも違います。これは最後まで悩みました。






最終決定

イラストのラフが上がってきて、上部を軽くする方が全体のバランスが良いと判断し、数字の後ろの黒枠を省きました。
しかしそのままでは白すぎるため、数字の後ろにモンスターのアイコンを薄く置くことにしました。これで、完成版とほぼ同様のものになりました。


最後に

長くなってしまいましたが、これがスカーミッシュ!作成の一部始終です。
スカーミッシュ!は初作品のため、細かい部分にまで気をつけて作成しました。二作目(ブドーニア王のおふれは合作なのでカウントせず)も同じ力が出せるかどうかがクリエイターの腕の見せ所だと思っています。これからも目標を高く持ち、自分の面白いと思うゲームへと進んでいきたいと思います。